顔面神経麻痺を鍼灸治療で改善したいと考えている方のために、顔面神経麻痺に対しての鍼灸治療について解説していきます。
顔面神経麻痺の治療は主に耳鼻咽喉科で行われますが鍼灸治療でも改善することが可能となり、効果の方もWHOにも認められています。
耳鼻科での治療は一般的には神経の炎症を抑えるためステロイドを使用したり、ウイルスに対しての抗ウイルス剤を使用することになります。
しかし、中には薬の副作用が気になったり、効果がいまいちという場合もあります。
このような場合は鍼灸治療も選択肢としてお考えいただければと思います。
本当に鍼灸治療で顔面神経麻痺が改善するのか?と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますが、実は大学病院でも顔面神経麻痺の治療に鍼灸治療が行われています。
鍼灸治療では麻痺した筋肉や顔面神経管を鍼で刺激していくだけではなく、顔面神経麻痺を引き起こした東洋医学的な体質の治療も並行して行っていきます。
顔面神経麻痺の鍼灸での治療期間は症状の程度にもよりますが、多くは週1~2回のペースで3ヶ月ほど継続して治療を行うことで麻痺は徐々に回復していきます。
そのため、鍼灸での治療期間としては3~6か月ほどとお考えいただければと思います。
顔面神経麻痺の治療で非常に大切なことは早期治療が大切ということです。
これは鍼灸治療だけではなく、病院での治療も同じこととなります。
神経の麻痺というのは治療が遅くなると回復に時間がかかるだけではなく、後遺症が残ってしまう可能性が高くなってしまいます。
そのため、少しでも後遺症を残さないためにもできるだけ早く治療を行う必要があります。
鍼灸治療に関しては顔面神経麻痺が起きてから1ヶ月〜遅くとも3ヶ月以内には開始させることをおすすめいたします。
発症後半年以上経過してから鍼灸治療を始めても改善しないわけではありませんが、完全に回復することが難しくなってしまいます。
鍼灸治療が適応となるのは顔面神経麻痺でも末梢性の場合となります。
顔面神経麻痺には末梢性と中枢性があります。
末梢性というのが多くの方が発症する顔面神経麻痺となります。
中枢性の場合は鍼灸治療は不適応となりますので、後述しておりますが、しかるべき医療機関を受診するようにしましょう。
顔面神経麻痺にはいくつかの種類がありますが、どのような原因でどのような症状があるか見ていきましょう。
顔面神経麻痺の約80%をしめるベル麻痺ですが、顔面神経麻痺でも末梢性の神経麻痺になります。
そして、ベル麻痺はヘルペスウイルスの関係が指摘されています。
このヘルペスウイルスに感染することにより顔面神経が通っている顔面神経管が腫れたり、炎症が起きることによってベル麻痺という顔面神経麻痺を引き起こすキッカケとなっているのではいかと言われています。
症状は片側にのみ以下のような症状が現れます。
顔面神経麻痺でもベル麻痺は治癒もしやすい傾向にあり、後遺症も残りにくいとされています。
しかし、だからといって治療をおろそかにしたり、治療開始が遅れてしまうと後遺症が残ってしまう可能性もあるため、早期治療は大切となります。
ラムゼイ・ハント症候群もベル麻痺と同じく末梢性の神経麻痺になります。
しかし、ベル麻痺と比較するとラムゼイ・ハント症候群の方が難治性となるため後遺症も残りやすくなります。
ラムゼイ・ハント症候群の原因はほとんどの方が幼少期に感染する水痘帯状疱疹ウイルス、つまり水ぼうそうの原因となるウイルスへの再感染とされています。
このウイルスは少し厄介な特徴を持っており、幼少期に感染し、治癒した後も体の中に潜伏し続け、何かの拍子に増殖し、ウイルス性の神経炎を引き起こします
症状はベル麻痺と同様の症状が現れますが、その他にも以下のような症状が現れることがあります。
つまり、ラムゼイ・ハント症候群は顔面神経麻痺とともに耳周囲にも以上が見られることになります。
なお、ベル麻痺に比べてなぜラムゼイ・ハント症候群の方が治りにくい理由は神経障害がより強いことが原因ではないかとされています。
ベル麻痺とラムゼイ・ハント症候群は末梢性の顔面神経麻痺となりますが、もう一つ中枢性の顔面神経麻痺があります。
中枢性の顔面神経麻痺の原因は脳疾患が原因となるため、脳梗塞や脳の腫瘍によって引き起こされます。
そのため、顔面神経まほの症状だけではなく、以下のような症状も出てきます。
このような症状がある場合は耳鼻咽喉科ではなく、脳神経外科、または脳神経内科を受診する必要があります。
また、鍼灸治療は不適応となります。
顔面神経麻痺の原因はストレスによる免疫力の低下も関係しているのではないかと考えられます。
顔面神経麻痺はベル麻痺、ラムゼイ・ハント症候群のどちらもウイルス感染が指摘されています。
しかし、ヘルペスウイルスは珍しいウイルスではなく、また水痘帯状疱疹ウイルスも体の中に潜伏しているウイルスになります。
そのため、ストレスをはじめ、一時的な体調不良、疲れなどにより体の免疫力が低下した際にヘルペスウイルスに感染、または水痘帯状疱疹ウイルスの暴走が起きているのではないかと考えれます。
顔面神経麻痺の原因は色々と言われていますが、真の原因は不明とされています。
人口10万人に当たり30人前後の罹患率であり、男女差はほぼなく30~40代に発症しやすいとされています。
しかし、どの年代でも発症する可能性があるため、注意が必要な疾患になります。
当院での顔面神経麻痺に対する鍼灸治療の症例をご紹介いたしますので、鍼灸治療を検討される際の参考にしてください。
2018年12月来院。
12月7日から右耳の後ろに痛みが出る。
2日後の9日の夕方から右側の顔面に違和感を感じる。鏡を見ると右目の眼瞼下垂と唇が左側に引っ張られているために、翌日にかかりつけの内科を受診。
MRI検査を行なうために他の病院を紹介されるが、MRIでは脳の方は問題なし。
その後、耳鼻咽喉科を受診し顔面神経麻痺でもベル麻痺と診断。
耳鼻科ではステロイド剤とビタミン剤、抗ウィルス剤による治療を行っているが、孫が恐がってしまうため早く治したいということで当院を受診。
症状は右目の閉眼ができない、口笛が吹けない、しわよせができない、コップで水を飲むとこぼれるなど
ストレスに関しては夫が7月に初期の肺がんと診断され、手術をして問題ない状態になったが、本人がマイナス思考なことが非常にストレスとなっている。
また、発症する直前には孫がヘルペスウイルスに感染していた。
その他、発症前に風邪を引いたということはなし。
脈診:沈弦脈
舌診:やや淡白気味、黄じ台
腹診:右脾募に邪あり、臍下不仁(臍の下に力が無い)
【弁証】:肝風内動証>肝腎陰虚証による顔面神経麻痺(ベル麻痺)
治療は週2回を基本として、合谷を中心に照海穴を適宜使用しながら治療を始める。
5診目ごろから口元が真っ直ぐになってくるが、食べる時やコップで水を飲む時はまだ口が歪んでしまう。
10診目から天枢穴を使用して胃経の調節も行なっていくと食事がしやすくなり、右目の眼瞼下垂も戻ってくる。
11診目からは週1回の治療に変更していくが16診目には眼瞼下垂もほぼなくなる。
その後タイミングが合わず1ヶ月ほど治療が空いてしまうこともあったが悪化することもなく、順調に回復していき、19診目の5月下旬には口元の歪みや眼瞼下垂は治癒したため、治療を終了。
2021年6月来院。
仕事の疲れがたまっていたが、上司に飲みに行くことを誘われたため付き合いのために飲みに行った翌日の朝に顔や舌の左側に痺れが出る。
仕事をしていると昼過ぎに顔面の左側が思うように動かなくっていることに気が付く。
仕事が忙しくなかなか病院へ行くことができなかったため、発症してから約1ヶ月後に耳鼻科を受診。
柳原法で6点しかなく、重度の顔面神経麻痺(ラムゼイ・ハント症候群)と診断される。
また、神経伝達検査の結果は1.6%しかないことも判明する。
その他、自覚症状は疲れやすい、疲れ目、乗り物酔い、肩こり、膿やすい体質、粉瘤ができやすい、扁桃腺が弱いなど。
脈診;沈弦細脈
舌診:淡紅色、黄じ苔
腹診:臍から上に冷えあり
【弁証】:脾胃湿熱証>肝鬱気滞証による顔面神経麻痺(ラムゼイ・ハント症候群)
顔面と関係のある「足陽明胃経」に湿熱がたまっていることと、ストレス、疲れが原因で顔面神経麻痺を発症したと考え、湿熱と気滞を取り除く治療を1ヶ月目(8診目)までは週2回のペースで行っていく。
3回目の治療を終えた時点で神経伝達検査の結果は25%まで回復しており、左側の口元が少し動くようになる。
4診目で鼻をピクピクと少し動かせるようになる。
治療開始し1か月経過後の9診目で左側のほほを動かせるようになってきたため、週1回に変更する。
14診目で左の眉を動かせるようになり、また口元も膨らませるようになる。
18診目で左目のウインクもできるようになる。
20診目でうがいをする時でも水が漏れることなくできるようになり、外見上はほとんど分からなくなる。
しかし、疲れがたまると仕事中や夜に左目がピクピクするため、定期的に鍼灸治療は継続中。
顔面神経麻痺は鍼灸治療でも改善可能なため、病院の治療がうまくいかない方やできるだけ早く改善したい方にはおすすめできる治療になるため、ご検討いただければと思います。
どんな病気でも早期治療ができればそれだけ改善も早くなりますが、顔面神経麻痺をはじめとした神経の麻痺はその最たるものだと思います。
顔面神経麻痺の治療で鍼灸治療を検討される場合は週1~2回の治療を3~6か月ほど継続してみましょう。
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